遺言・生前対策

相続と信託の基礎知識|違い・使い分け・選び方を宅建士が解説

Bushizo相続相談室(宅地建物取引士)
相続と信託の基礎知識|違い・使い分け・選び方を宅建士が解説

「相続と信託、どちらを使えばいいの?」——その疑問、多くの方が抱えています

「親が認知症になりそうで、不動産の管理が心配」「子どもに財産を残したいけれど、相続と信託の違いがわからない」——こうした悩みを持つ方がここ数年で急増しています。

結論からお伝えすると、「相続」と「信託」は目的が異なる仕組みであり、多くのケースで組み合わせて活用するのが最もスムーズです。 どちらか一方を選ぶというより、それぞれの役割を理解したうえで、ご自身の状況に合った設計をすることが重要です。

この記事では、相続・遺言・家族信託それぞれの基礎から、具体的な使い分けの判断基準まで、宅地建物取引士の視点も交えながら丁寧に解説します。


そもそも「相続」と「信託」は何が違うのか

相続とは

相続とは、人が亡くなった(=相続開始)後に、故人(被相続人)の財産や負債を法律に定められた相続人が引き継ぐ仕組みです。民法で定められた「法定相続」を基本としつつ、遺言書があればその内容が優先されます。

  • タイミング: 亡くなった後に発生
  • 手続き: 相続登記・遺産分割協議・相続税申告など
  • 期限: 相続税申告は相続開始から10か月以内、2024年4月からは相続登記が義務化(3年以内)

信託(家族信託)とは

信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる人(受託者)に財産の管理・処分を任せ、その利益を受益者が受け取る仕組みです。銀行などが行う「商事信託」と、家族間で行う「家族信託(民事信託)」があり、相続対策の文脈では家族信託が注目されています。

  • タイミング: 生前に設定でき、亡くなった後も効力を継続できる
  • 手続き: 信託契約の締結・信託登記など
  • 特徴: 認知症対策・柔軟な財産承継・二次相続対策に強い
比較項目相続(遺言含む)家族信託
設定タイミング生前(遺言)or 死亡後生前のみ
認知症対策✕ できない◎ 有効
財産管理の柔軟性△ 限定的◎ 高い
二次相続・受益者の指定△ 一代限り◎ 複数世代可能
費用感比較的低コスト初期費用がかかる傾向
専門家関与司法書士・税理士など司法書士・弁護士必須

家族信託が特に有効な3つのシーン

① 親が認知症になる前に不動産の管理権を移しておきたい

認知症と診断されると、本人の判断能力が失われたとみなされ、不動産の売却・リフォーム・賃貸契約などが自由にできなくなります。通常は成年後見制度を利用することになりますが、後見人への報酬や家庭裁判所の管理が継続的に発生するなど、負担が大きいケースもあります。

家族信託を元気なうちに設定しておけば、親(委託者)が認知症になった後も、子(受託者)が契約に基づいて不動産を管理・売却できます。品川区・大田区など都市部では不動産を持つ高齢者も多く、こうした相談が増えています。

② 障害のある子に財産を残し続けたい

知的障害や精神障害を持つお子さんがいる場合、遺産をそのまま相続させても本人が管理できないことがあります。家族信託を使えば、親亡き後も別の受託者が管理しながら受益者(障害のある子)に給付を続ける仕組みを作れます。

③ 「自分の次」まで財産の行き先を決めておきたい

遺言書は「一代先」しか指定できませんが、家族信託は受益者を複数世代にわたって指定することが可能です(ただし信託期間には制限があり、一般的に設定から30年が目安とされます)。「自分→配偶者→子ども」という順で財産を渡していきたい方に向いています。


「遺言」「生前贈与」「家族信託」——3つの手段の使い分け

相続対策の手段は家族信託だけではありません。遺言書・生前贈与も含めた3つを整理します。

手段主な目的メリット注意点
遺言書死後の財産分配を指定比較的低コスト・手軽認知症になると作成不可
生前贈与生前に財産を移転早期に財産移転できる2024年から相続前7年分が加算対象に
家族信託生前管理+死後承継柔軟・認知症対策に強い初期コストが高め・専門家必須

2024年の制度改正を必ず確認しよう

2024年1月から、生前贈与の相続財産への加算期間が「3年」から「7年」に延長されました。 これにより、亡くなる7年前までの贈与が相続税の課税対象に含まれることになりました(ただし延長された4年分は100万円の控除あり)。生前贈与だけに頼る対策は以前より効果が薄れる局面も出てきます。

また、2024年4月から相続登記が義務化され、相続で不動産を取得した場合は3年以内に登記しなければ10万円以下の過料が科せられる可能性があります。「とりあえず放置」は厳禁です。


家族信託の費用・手続きの流れ

家族信託の設定には、一定のコストと時間がかかります。一般的な目安を示します(費用は財産規模や専門家によって異なります。必ず事前に確認してください)。

費用の目安(一般的なケース)

項目目安費用
専門家(司法書士・弁護士)への報酬30万〜100万円程度
信託登記費用(登録免許税など)固定資産税評価額の0.3〜0.4%程度
公正証書作成費用数万円程度
信託口口座の開設金融機関によって異なる

手続きの大まかな流れ

  1. 家族で話し合い・専門家に相談(信託設計の方針決定)
  2. 信託契約書の作成(司法書士・弁護士が作成、公正証書が推奨)
  3. 信託登記の申請(不動産が対象の場合)
  4. 信託口口座の開設(信託財産用の専用口座)
  5. 信託開始・運用

専門家なしでの設定は契約の無効リスクや税務上のトラブルにつながるため、必ず専門家に依頼することを強くおすすめします。


相続・信託対策を始めるベストなタイミング

「まだ早い」と思っているうちに、認知症の診断が出てしまうと家族信託も遺言書の作成もできなくなります。対策は「元気なうち」にしか打てないというのが、相続の現場で何度も目にする現実です。

特に以下に当てはまる方は、早めの相談をおすすめします。

  • 親が70歳以上で不動産を持っている
  • 兄弟間で財産の分け方について意見の相違がある
  • 障害を持つ家族がいる
  • 相続人の一人が行方不明・疎遠である
  • 空き家・実家の売却・活用を検討している

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よくある質問

Q1. 家族信託と成年後見制度はどう違いますか?

A. 成年後見制度は、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任する制度です。一方、家族信託は判断能力があるうちに自分の意思で設定する仕組みです。後見制度は本人の意向が反映されにくく、財産管理の自由度も低い傾向があります。認知症になる前に家族信託を設定しておくことで、後見制度を使わずに済むケースも多くあります。

Q2. 家族信託にすると相続税は節税できますか?

A. 家族信託そのものに直接的な節税効果はありません。信託財産は受益者の財産として相続税の課税対象になります。節税を目的とするなら、生前贈与・生命保険の活用・小規模宅地等の特例の検討など、別途の対策が必要です。税務面は必ず税理士にご確認ください。

Q3. 信託契約は途中で変更・解除できますか?

A. 一般的には、委託者・受託者・受益者の合意があれば変更・解除が可能です。ただし、契約内容によって異なるため、設計時に「変更条項」を明記しておくことが重要です。専門家と一緒に、将来の状況変化を見越した柔軟な設計をすることをおすすめします。


本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法務・税務判断を提供するものではありません。具体的な対策については、司法書士・税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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