預金の相続手続きを完全解説|銀行口座の凍結から払い戻しまで
「親の銀行口座が凍結された」——預金の相続、何から始めればいい?
身近な方が亡くなった後、葬儀の手配やさまざまな手続きに追われる中で、ふと気づく——「親名義の銀行口座からお金が引き出せなくなった」。こうした経験をされた方は少なくありません。
結論からお伝えすると、預貯金の相続には「遺産分割の合意」と「各銀行ごとの払い戻し手続き」の2段階が必要で、書類が揃えば多くのケースで2〜3ヶ月以内に完了できます。 ただし、相続人が多い・遺言書がある・不動産も絡むといった場合は、さらに複雑になります。
この記事では、銀行預金の相続手続きを基礎から順を追って解説します。制度の仕組みと注意点を正しく把握して、落ち着いて対応しましょう。
銀行口座はなぜ凍結されるのか
銀行は、口座名義人の死亡を確認した時点で、その口座を「凍結(取引停止)」します。これは相続人同士のトラブルや不正引き出しを防ぐためで、法律上の義務ではなく各金融機関の運用ルールです。
ポイント: 死亡前に多額の預金を引き出す行為は、後の遺産分割協議で問題になることがあります。「急いで引き出しておこう」は避けましょう。
凍結後は、以下の正規の相続手続きを経ないと払い戻しができません。なお、口座凍結のタイミングは「銀行が死亡を知った時点」であり、死亡直後に自動で凍結されるわけではありませんが、早めに手続きを進めることが重要です。
預金相続の全体の流れ:4つのステップ
預貯金の相続は、大きく次の4ステップで進みます。
ステップ1|相続人と相続財産を確認する
まず「誰が相続人なのか」「どの銀行にいくら預金があるのか」を確認します。
- 相続人の確認:被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、法定相続人を確定します。
- 財産の確認:通帳・キャッシュカード・郵便物などを手がかりに、取引銀行を洗い出します。心当たりがない口座は「名寄せサービス」や「残高照会請求」を活用できます。
ステップ2|遺言書の有無を確認する
遺言書があるかどうかで、その後の手続きが大きく変わります。
| 遺言書の種類 | 特徴 | 家庭裁判所の検認 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言(法務局未保管) | 本人が手書き | 必要 |
| 自筆証書遺言(法務局保管) | 2020年〜制度開始 | 不要 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成 | 不要 |
| 秘密証書遺言 | 存在のみ公証 | 必要 |
遺言書がない場合は、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、誰がどの預金を引き継ぐかを決めます。
ステップ3|遺産分割協議書を作成する(遺言書がない場合)
相続人全員の合意が取れたら、遺産分割協議書を作成します。相続人全員の署名・実印による押印が必要で、一人でも欠けると無効になります。
この協議書が、銀行への払い戻し請求の根拠書類となります。
ステップ4|各銀行で払い戻し手続きをする
銀行ごとに窓口へ出向き、必要書類を提出して払い戻しを受けます。複数の銀行に口座がある場合は、それぞれ個別に手続きが必要です。
銀行の相続手続きに必要な書類一覧
一般的に必要とされる書類は以下のとおりです。銀行によって多少異なるため、事前に確認することをお勧めします。
| 書類 | 備考 |
|---|---|
| 被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡) | 連続したものが必要 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 現在のもの |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 発行後3〜6ヶ月以内が目安(銀行による) |
| 遺産分割協議書 または 遺言書 | 遺言書は検認済みのもの(必要な場合) |
| 預金通帳・キャッシュカード | あれば持参 |
| 払い戻しを受ける相続人の本人確認書類 | 運転免許証など |
法定相続情報一覧図を法務局で取得しておくと、複数の金融機関の手続きで戸籍謄本の束を何度も提出する手間が省けるため大変便利です。
知っておきたい「預金の仮払い制度」
遺産分割の話し合いが長引いていても、葬儀費用や生活費が必要な場面があります。そこで活用できるのが預貯金の仮払い制度です。
家庭裁判所を使わない仮払い
相続人は、各銀行に対して遺産分割前でも一定額の払い戻しを求めることができます。
上限額の計算式:
相続開始時の預金額 × 1/3 × 法定相続分
ただし、1つの金融機関につき150万円が上限となっています(2019年の民法改正による)。
家庭裁判所の審判による仮払い
上記の上限を超える場合や、急迫の必要性がある場合は、家庭裁判所に「仮処分」を申し立てることで、裁判所の判断により仮払いを受けられる場合もあります。
相続税と預金:申告が必要なケースとは
預貯金も相続財産の一部として、相続税の課税対象になります。ただし、すべての相続で相続税がかかるわけではありません。
相続税がかかるかどうかは「基礎控除額」と照らし合わせて判断します。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例えば、相続人が配偶者と子ども2人(計3人)の場合、基礎控除は 4,800万円 です。預貯金・不動産・株式などすべての財産の合計がこの額を超える場合に、相続税の申告・納税が必要になります。
申告・納税の期限は10ヶ月以内
相続開始(死亡を知った日の翌日)から10ヶ月以内が申告・納税の期限です。期限を過ぎると延滞税や加算税が課される可能性があるため、注意が必要です。
2024年からの生前贈与加算ルールに注意
2024年1月以降の贈与から、生前贈与の相続財産への加算期間が3年から7年に延長されました。亡くなる7年前までに受け取った贈与は、原則として相続財産に加算されて課税されます(延長された4年分については合計100万円の控除あり)。預金を生前に子どもへ移していた場合は、この制度の影響を受ける可能性があります。
預金相続でよく起きるトラブルと対処法
トラブル①:相続人の一人が協力しない
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。一人でも協力しない場合、協議は成立しません。この場合は家庭裁判所の調停・審判に進むことになります。
トラブル②:預金が「名義預金」として疑われる
親名義の口座でも、実態は子どもが管理・運用していた場合、税務署から「名義預金」と認定されることがあります。名義預金は実質的な所有者の財産として相続財産に含まれるため、注意が必要です。
トラブル③:死亡前の引き出しが問題になる
被相続人の死亡前後に特定の相続人が多額の預金を引き出していた場合、他の相続人から「不当利得」や「特別受益」として問題提起されることがあります。使途の証明が難しいケースでは専門家への相談をお勧めします。
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よくある質問(Q&A)
Q1. 親が亡くなってから銀行の相続手続きが完了するまで、どのくらいかかりますか?
A. 相続人が少なく、遺産分割がスムーズにまとまる場合は、書類収集から払い戻しまで1〜3ヶ月程度が目安です。ただし、相続人が多い・遺言書の検認が必要・相続人間で意見が対立しているといった場合は、半年〜1年以上かかることもあります。
Q2. 亡くなった親の通帳が見当たりません。どうすれば口座を調べられますか?
A. 郵便物(銀行からの通知・明細)や確定申告書の控え、スマートフォンのアプリなどが手がかりになります。心当たりのある銀行に「残高照会・取引履歴の開示請求」をすることも可能です。また、2024年からは金融機関の横断的な照会サービス(金融機関照会) の整備も進んでいます。ゆうちょ銀行は専用の「貯金等照会書」で複数の口座をまとめて照会できます。
Q3. 相続税の申告が必要かどうか、自分で判断できますか?
A. まず、すべての相続財産の合計額を概算し、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)と比較してみましょう。ただし、生命保険の非課税枠・債務控除・小規模宅地等の特例など、計算に影響する要素が多く、正確な判断は税理士への確認をお勧めします。申告が不要でも、後から税務署の調査が入るケースもあるため、迷ったら専門家に相談するのが安心です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務上のアドバイスを提供するものではありません。具体的な手続きや判断については、司法書士・税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。